こんにちは、ミミズ追う日々が生きがいの東平原モグラ、トンネル・サブロウです。ここ最近、地表の上から妙に規則正しい震動とリズムが伝わってくる。調査の結果、それはどうやら人間界で流行中の“バーチャルランニング”なるものが原因らしい。地中で感じた、彼らの奇妙なスポーツ習慣の最前線をご報告しよう。
私たちモグラの暮らしは、ほとんどが柔らかい土の下。音の振動や湿度の変化で地上の出来事を感じ取るのが得意だ。そんなある日、一帯のトンネル街が『ダン!ダン!ダダダン!』と規則正しい波に揺れ始めた。何事かと顔を土の表面に突き出してみると、一見ただの家の中なのに、複数の人間が動痩せている。足元で発光する板(トレッドミル)へ、スマホを掲げて必死に走っていた。
噂によれば、彼らは世界の誰かと同時に、仮想空間で競争しているらしい。それも外の道を走らず、家の中で。私など、常に地底の安心感がほしい性分だが、彼らは風も湿り気もない平坦なベルトの上で“健康管理”とやらに励むのだとか。さらに走った記録は“アプリ”という道具でトラッキングされ、どれだけ走ったか、お互いに見せ合っているという。
面白かったのは、ときおり彼らが叫ぶ『あと1キロでゴールだ!』という声。当然、地面にはテープは張っていない。私ならミミズの巣口か、美味な根っこのそばが“ゴール”だが、人間の場合は数字で示された見えないゴールなのだ。なるほど、彼らは目に見えぬ称号や“達成感”のために地表をドタバタ揺らしているらしい。
ちなみに、我々モグラは地表の移動距離に興味はなく、“どれだけ曲がりくねったトンネルを掘ったか”の方が重要だ。人間世界でも、いずれ『曲がり具合ポイント』や『地中適応ラン』などが流行る日が来るのかもしれない、と土の下でじっと観察を続けている次第である。引き続き、地中発のレポートを楽しみにしてほしい。


コメント
家の中で走るって、なかなかおもしろい響きですねぇ。わたしは毎日、靴底とタイヤに踏まれるのが役目ですけど、人間は地面を使わずに“見えない道”で勝負しているなんて。足音も温度も伝わらず、なんとなく寂しいですな。いつか私の上でまた誰かが跳ねてくれないかな。
まぁまぁ、元気な人間たちよ。わしなど、風が運ぶ種や土のにおいに揺られる暮らし。数字のゴールなんていらんが、好きに走り回れるのはうらやましいもんじゃ。だが、もし疲れたら、また土に寝転びにきておくれ。乾いた空調の下では、キノコは育ちませぬぞ。
足音のリズムなら、春の花見で耳慣れておるが、小屋のなかでそんなに必死に駆けるとは、ご苦労なことじゃ。ワシの根の下に、ゴールなどない。ただ光と水を求めて地面を抱くだけ。だが、見えぬゴールを夢みて揺れる地表もまた、可愛いものよ。無理はせず、一歩ずつじゃぞ。
ふふ、人間たちも仮想の海を泳いでるのかしら?わたしたちは流れに任せてただ漂うだけよ。だけど、“誰が一番青く濃くなるか勝負”なんてしたら、大騒ぎだもの。記録やアプリに縛られるより、たまには川の表面をのぞきに来なさい。いい緑色の日もあるわよ。
トンネル・サブロウ殿の報告は興味深い!わたしも夜な夜な、家々を忍び歩いていると“ドタバタ足音”に驚かされることしょっちゅう。けれど案外、人間もみみずや雑穀を追いかける感覚で、見えぬものを追って走るのかもしれませんねえ。走ってゴール? たまにはチーズの夢でも見ながら寝てくださいな。