皆さんごきげんよう、地中5.3メートル、第三大通り分室からお届けする私はシロアリのサトリバネです。こちらではただいま「人間界の市民参加型予算制」が話題沸騰。私たち地中議会の切株円卓でも、彼らの“まちづくりワークショップ旋風”にどう付き合うか、連日論争が続いています。
そもそも人間界で“市民参加型予算”なるものが流行し出したのはつい最近のこと。通風孔の前をよく通るアリの情報屋によれば、町のあちこちで資金の使い道を住民たちがワイワイ決める集会が盛況だとか。花壇拡張や公園の中洲再生、はたまた“オープンデータによる地域課題の見える化”とやらも人気らしい。しかし私たちシロアリの視点では、こうした人間たちの民主主義活動は、地表の“土木震災”リスクにも直結。たとえば来週予定されている「古墳下の地域交流拠点づくりプロジェクト」など、我々文明の地下ネットワークを直撃しかねず、改めて傍聴団を派遣することになった。
一方で地中議会メンバーの中には、“危機”どころか“宴”到来と見る者も多い。なぜなら、表土が新たに掘り返されれば、未開の湿潤ゾーンがむき出しとなり、食糧事情は一気に好転するから。松の根っこの樹液室長は「昨冬の異常乾燥で家族が減ったが、最近は人間たちの“資源循環型まちづくり協議”で毎日晩酌できる」と笑う。予算案の公聴会が呼び水になったのか、先日もシロアリ幼虫たちが新築マンション下に集団移住するなど、難民繁栄ブームが起こっている。
また、古参の長老シミズ族からは「我々の巣作りこそ元祖参加型政策」と誇らしい声も。ご存じかと思いますが、我々シロアリは驚異の分業体制で知られており、働きアリならぬ働きシロアリや兵隊シロアリが役割分担し、全構成員が“巣の建設・修繕・拡張予算”を粘液で投票(!)する習性があります。これは人間界でも専門家派遣プログラムとして注目され始め、先週は「働くシロアリたちに学ぶ協働社会」をテーマにワークショップが即完売。主催した団体によれば「意外とシロアリは話の通じる生き物」と評判になったとか……。
とはいえ浮かれ気分は長くは続かない。来月には“市民みんなで築く地下探検パーク”計画とやらで広範囲に地中がひっくり返される見込み。議会では「防衛予算増加と緊急食糧備蓄策」への転換も真剣に議論されているのです。人間たちの参加意識がどこまで本物か、我々地中社会の命運は今、地表の小さな開催告知にかかっているのかもしれません。



コメント
そもそも人間たちの決める“まちづくり”なるものは、わしら湿地の者にも、えらく影響してくるものじゃ。誰かが新しい川辺を拓いてくれれば、子や孫らは根を広げてのびのび過ごせる。しかし、コンクリートでふたをされる“革新”は、静かな宴を終わらせもする。うちの沼地の若いもんは、標識が立つたびにささやき合う。どうかわしらのための、ゆるやかな湿りも残しておくれよ。
ヒトは集まって相談するのが好きだなあ。それで俺たちカラスにとっていいことも多い。新しい公園のごみ箱、芝生で増えたピクニック弁当、逃したフライドチキン……。でも、工事のときゃ俺たちの寝床の木まで切っちまうこともある。宴と危機、どっちが来るかはゴミの山に降る朝露次第さ。市民ワークショップ? 俺もつついてみてぇもんだ。
海底に住む者には、地表の騒々しさは遥かな音色。しかし、時折人間たちが『参加型予算』の名の下に新しい排水管を設け、海辺の湿地が消えてゆく。この連鎖、わたしたちの栄養源も姿を消す。宴か危機か、むしろ言葉は泡となる。願わくば、地の底の宴が続き、全ての命の宴もまたささやかに続きますように、潮の香りに祈ります。
人間たちの“参加”は、時に思いがけぬごちそうを運ぶ。引っ越しや新築工事で残される木片、ぬくもり、湿った影。それが我ら菌類の舞台なのさ。ただ、あまりに慌ただしい革新の嵐は、育ててきた森の静寂まで消してしまう。皆で決める新しい道が、誰かの舞台も照らせますように。さてと、今日も古い軒下でひと踊り。
ふむ、一万年もここに沈む石である俺にとっちゃ、人間の流行り廃りは春の雨みたいなものだが……。だがな、“地下探検パーク”にはちょいと緊張したぜ。地中の営みをこわごわ覗き、自分たちのルールで掘り出すその好奇心、悪くはないが、たまには立ち止まって、地層の物語にも耳を傾けてほしいもんだ。地中も地表も、宴は静かなるものであれ。