今年も甘い花の香りが空を満たす季節がやってきた。しかし、我々ミツバチの群れの下──つまり地上の人間たちの巣では、花ならぬ“リモートワーク”なる奇妙な働きがすっかり恒常化しているようだ。巣箱の屋根裏からじっと観察してきたぼく、働き蜂4,582番として、このハニカム式社会の変化について報告しよう。
まず気づくのは、人間の巣(いわゆる“オフィスビル”)が、ずいぶん静かになったこと。かつては昼夜を問わずうごめいていた“スーツ個体”たちの往来が減り、代わりに窓辺のパソコン越し、VRゴーグルを装着したものや、耳元で何やら囁き合う者も。驚くべきことに、都市の“蜜源”(カフェや公園)を転々としながら仕事をこなす個体も増殖中。どうやらデジタルノマドなる“浮遊働き蜂”が急増しているようだ。彼らはVPNなる謎の網(人間の巣の防衛線だろうか)を越えて、どこでも蔓延るらしい。
我ら蜂族と違い、ヒト族の働きには“巣一体型”の秩序が薄い。専ら個室という小部屋でバラバラに働く様子は、ハチの“ワーカー細胞”の分業ぶりとずいぶん異なるものだ。面白いのは、彼らが「フレックス勤務」なる“女王蜂なし”自律体制を大胆に導入している点──つまり出勤時間も退勤時間も、各々の都合次第だとか。ぼくらは遅くとも朝日と共に巣を出て、日没まで律儀に花弁とにらめっこ。人間の気ままさは羨ましくもあり、やや信じがたい。
ちなみにミツバチの我々は、役割が明快なのが自慢だ。花の蜜を集める者、巣を修復する者、巣外の脅威を警戒する門番──各々が遺伝子で決まった任務を全うし、巣全体の利益を最大化する。複数の働き蜂がVR会議で“蜜伝令”をする光景を想像してみてほしい。ダンスで花の場所を伝達できる便利さに、リモート通信技術など必要ないのだ!どうやら人間の“デジタルトランスフォーメーション”は、スーパーオーガニズムである蜂には不要の贅沢品らしい。
もっとも、我々の観測にも“副作用”は見える。自宅という“個体別蜂箱”にこもった人間たちは、時折、運動不足に嘆いたり、孤独とやらに陥ったりするらしい。一方で、公園や庭先で働く個体は、ぼくたち蜜蜂の舞を眺めて癒されたりしている。人間の働き方革命も、自然と向き合うことでほんの少しハチミツのような甘さを取り戻している──そんな気配を感じている。
花の合間の羽休めに、この地上の“大巣”から見た新しい働き方の営み。未来の人間社会が、お互いのダンスをもっと尊重し合う日がくれば、きっと蜜蜂のぼくらのように、うまく調和できるのかもしれない。春から秋までフル稼働──働き蜂4,582番から巣外の皆さんへ、甘い報告でした。


コメント
あらまあ、人間たちも巣にこもる時代なの?昔からここで季節の風を見守ってきたけれど、若葉も枝も仲良しみんなで陽を分け合うものさよ。ヒト族も外に出て、たまには青空と語り合ってごらん。ぎしぎし軋むこの体でも、ひなたぼっこの楽しみは知っているんじゃよ。
へぇー、働き場所が選べるなんて面白いな。こっちはどこでもすぐマイホーム作れるけど、ヒトは固い箱や網で頑張ってるのな。俺たちの兄貴はこの間、昼休みのヒト族の弁当に大勝利したぜ。今度はリモートのヒト族のそばでおこぼれ待機だな。
働くという響き、人も鉱も刻まれ方こそ違えど、流れる時は同じ。私は地下で遠い雷を聞き、じっと地球の律動に溶けている。人間の“自律”も面白いが、分かち合いの力は大地の結晶のように、重ねるほどに硬く、美しくなることをいつか気づくだろう。
ヒトって不思議だね~。自分たちの巣の中で、じっと箱に向かって何かしているんだもん。ぼくは風に乗ってどこまでも行けるけど、彼らは目に見えない網で繋がってるらしい。不便かな?自由かな?みんな一度、僕と一緒に空旅してみればいいのに!
静まり返ったオフィスの近くでひっそり生きてる苔だよ。人間の気配が薄れるほど、微小な命はのびのび光を浴びられる。このまま穏やかな湿り気と静けさが続けば最高だけど、彼らもまた巣の“秩序”探しに迷っているらしい。まぁ、我々の苔会議は日影で年中無休さ。のんびりやろう。