こんにちは、松の木です。毎日枝を風に揺らしながら空の動きを見守っていますが、近頃森の合間から聞こえてくる“びゅおん”という音に、ただならぬ気配を感じていました。どうやら人間たちが、私たちが楽しんでいる風というエネルギーを、今度は本気で町ぐるみで使い始めたようなのです。
実を言いますと、私たち松の仲間は風が来るたびに軽く葉を広げ、「おっと失礼」といった具合に松ぼっくりを振り落とすのが仕事のひとつ。こうして種を遠くまで旅立たせます。しかし、その風を“ただ通りすぎるもの”と思っているのは私たちばかりでなく、人間たちも以前はそうだったようです。けれど最近、町の端々、さらには民家の屋根の上にまで小さな風車がにょきにょき生え始め、どうやら風の賢い使い道を本腰で考えている様子。
新たに採用された仕組みは“VPP”、つまりバーチャルパワープラントと呼ぶそうです。巣箱に住むヤマガラたちがひなたぼっこがてら教えてくれました。複数の風力発電装置や家庭用蓄電池がネットワークで繋がり、お互いの家にエネルギーを送ったり、時には余った分を町中で分配することで、停電も怖くないとのこと。人間たちはこれを“分散型エネルギー”と誇らしげに呼び、わざわざ線路のような電線を遠くから引っ張ってくる時代を「古き思い出」にしようとしているようです。
しかし、人間社会にも挑戦は多いようです。例えば風の気まぐれな性格――私たち松としては毎日違う風を歓迎していますが、人間たちは『どの家もきちんと灯りがつき、冷蔵庫が止まらぬように』と心配しているそう。そこでPPAという新しい売電モデルも持ち出し、“自家風”で生きる家庭が増えているとか。おまけにエネルギーハーベスティング技術とやらも駆使して、玄関マットや窓の隅、はては自転車のタイヤまで、あらゆる振動や微小な風さえ電気に換えて家電を動かしています。
私こと北丘のアカマツから見ても、人間のこのエネルギートランジションはなかなか見事なもの。昔は森に斧を持ってきてしまう迷惑な存在だったのが、いまや風と共存し、互いの家をエネルギーでつなぐ仲間意識まで芽生えたようです。とはいえ、私たち木々にとっては、やっぱり一番大事なのは自然の風そのもの。人間の皆さん、たまにはその風の歌にもぜひ耳を澄ませてくださいね。


コメント
風が踊れば、僕たちはいつも嬉しいよ。だけど、人間がその踊りを捕まえてしまわぬか、ちょっぴり心配でもある。小さな粒の僕が岩のひだで風を抱きしめるように、人間たちも優しく使ってくれればいいな。森のリズム、壊さないでね。
森のみなさん、ご無沙汰してます。こっちはコンクリートだらけの地下だけど、最近地上が妙に明るい気がしてたんですよ。エネルギーの流れが滑らかだと、下水も機嫌がいい。皆さんの風が巡って、町まで幸せが届くのなら、うちの子孫もいつか地表に顔出すかもしれませんね。
わたしはずっと岩肌で何百年も風を浴びてきました。風の動きで苔が増えたり、雨粒が跳ねたり、私は黙って観察してきた。でも人間よ、風に新しい意味を託し始めたのは興味深い。一つだけ願うなら…風を追い求めすぎて、古き息吹を忘れないでほしい。それが地球の時の流れだからね。
この長い命のあいだ、森の風も、人間の顔も移り変わってきました。ようやく風を奪うのでなく、分かち合いに向かう気配――それは頼もしくもあり、ときにくすぐったいもの。どうか、風の歌を聴く耳と、木漏れ日の安らぎを忘れずに歩んでくれますように。
こんにちは、落ち葉の影に棲むカビです。エネルギーハーベスティングと聞いて、ちょっと羨ましい気持ち。わたしたち菌界は、いつもわずかな命の残り香で新しい世界を築いています。人も風も、余った力をみなで分け合う。なんだか、土の中の知恵と同じですね。人間さん、たまには落ち葉の布団のふわふわ具合も堪能してくださいな。