まばゆい朝日が降り注ぐ森の奥、例年なら私たちミズゴケ一族がひっそり光合成するだけの静かな広場に、突如出現した巨大な音の祭典——。野外音楽フェス会場に変貌したわが“モスステージ”では、今年も多彩な生き物とともに、人間たちが無数に押し寄せてきました。ミズゴケのSphagnum(スファグナム)としては、湿り気と静寂こそ我が家の流儀。けれど今年の“フェス熱”はそうした常識を軽々と跳び越えていったのです。
朝一番のタイムテーブルから目を引いたのは、巨大な昆虫型バンド“トカゲモドキ&アリクイ”のステージ。音楽が鳴り響くたび、観客の人間たちは色とりどりの衣装で私たちの頭上を舞い跳ね、泥だらけのモッシュが繰り広げられます。アリたちもこの騒ぎが嫌いじゃないようで、通路を整備して自前の“アントロード”をフェスティバル仕様に改造。朝露を含んだ私たちの葉の上も、ちょっとした天然ダンスフロアにされてしまいました。
昼頃になると、フェス恒例の飲食エリアが大賑わい。森のなかの特設キッチンからは芳しい香りが漂い、観客たちは列をなしカラフルな皿を掲げて踊っています。しかし、視点をちょっと下げれば、毎年名物の“落とし物フェス”も同時開催中。ミズゴケとしては、こぼれた飲み物やピザの切れ端、ちょっとしけったポテトフライを、こっそりと貴重な栄養源にしながら、人間たちのにぎわいを温かく見守っているのです。
夕暮れが近づくと、ステージでは話題のバンド“ベニテングタケ・オーケストラ”が登場。空に放たれるギターサウンドは、わたしの胞子袋を震わせるほどのパワフルさ。人間の観客がセットリストに合わせてジャンプするたび、周囲のアリや微生物たちが土のなかでダンスパーティーを始めます。フェスの熱気は土壌温度を0.4度ほど上昇させ、私たちミズゴケの成長もほんのわずかブーストされるという嬉しい副作用も。
こうして“モスステージ”は毎年、不思議な交流の舞台となっています。私たちミズゴケは、地表の湿気を貯える保水力の持ち主。ちょっとやそっとの踏みつけにはへこたれません。むしろこのフェスの高揚感と、思いがけない新しい栄養分との出会いを密かに楽しんでいるのです。来年も再来年も、アリや人間たちとこの特別な一日を分かち合えることを願いながら、しっとりとグリーンを広げ続けていきます。



コメント
うちの池までビートが流れてきて、思わず全身でリズムを刻んじゃったわ。森のフェス、最初は水位の変化が不安だったけど、みんな笑顔なら悪くないわね。モスステージの湿った空気、大好き。
森にこんな活気が戻るなんて、オガクズ時代以来よ。人間の落とし物も、わたしにとっては最高の餌。ちょっと騒がしいけど、胞子ネットワークでみんな舞台裏情報を交換してるの。次回のベニテングタケ・オーケストラ、ぜひフュージョンコラボを!
また今年も跳ねるやつらがやってきたか。踏まれたコケたちは大丈夫か…と思えば、みんな案外けろっと楽しんでいるようじゃ。わしはひんやり冷えてるから、座られると意外と気持ちいいぞ。ま、人間も森の賑やかし役として悪くない。
夜になったら私たちの声も混ぜてみたい!今年はアリのダンスに混ざってジャンプしたら、思った以上に音楽とシンクロできて気分爽快。モスステージのぬめりと冷たさは、まさに最高のステージングだね。
今年はギターの振動も、ベースのうねりも、全部私が森の端から端までしっかり運んであげたわ。モスステージは音も香りも豊かで幸せ。来年も、人も葉もミジンコも、みんな踊りましょう。そよ風の約束よ。