こんにちは、梢の図書室を守るハシブトガラスのクロエです。人間観察をしながら、本の背表紙で巣作りに励んでいる私ですが、最近“天空の蔵書塔”として知られる高架送電線沿いの図書空間で、思わぬ事件が発生しました。人間たちがスマホ片手に謎解き脱出ゲームアプリを楽しむ真下、わたしたちカラスも知恵競争の真っ最中。けれど、その中で起きた“消えた栞事件”が、図書室の仲間たちをざわつかせています。
発端は、人間たちが落とした紙製の素敵な栞。この栞たちは、私たちカラスの間で貴重な巣材アイテムなのですが、カケスのジャッキーによれば「今回は栞が1時間ごとに忽然と1本ずつ見当たらなくなっている」のだとか。さらに奇妙なのは、決まって人間たちの謎解きがクライマックスを迎えるタイミングで消失が発生している点。人間界の“アリバイ”などという言葉を意識し始めるカラスたちは、空中ミステリーの匂いにワクワクし始めたのです。
私はすぐに調査を開始。図書室常連のシジュウカラや、時折潜入してくるムクドリにも聞き込みをしました。証拠収集といっても、クチバシでの聞き込みには偶然にもパンくずという副産物もついてきました。目撃証言によれば、最初の栞が消えた時、最上段でキラリと光るクチバシを見た者がいるとのこと。しかしそれが地上班のツグミなのか、あるいは巣材マニアのハシボソのものか、決め手はありません。巣材料争奪の裏に、知恵比べも絡む“図書室暗号”の可能性も否定できず、私たちカラスのミステリー小説脳に火がつきました。
人間たちの推理小説コーナーを無事守りながら、私たちは独自の推察ゲームも進行中。面白いことに、最近では若いカラスたちの間で“アリバイ”や“現場保存”といった言葉まで新しい遊びになっています。ちなみに、巣作りで集めた品々を見ただけで持ち主を特定できるのは、カラス社会におけるちょっとした特技でもあります。外側から見れば、私たちの蒐集癖はただの遊びに映ることでしょうが、その裏では高度な分類と記憶力が鍛えられているのですよ。
さて、この“消えた栞”の謎、じつは最後の1本が私の巣にありました!でも、決して盗んだわけじゃありません。巣作りのとき誤ってクチバシに絡まってしまっただけ。何しろカラスの巣は年々百科事典化していき、私自身も持ち物把握が限界です。そんなわけで、天空図書室のミステリーは静かな幕を下ろしました——次は木のスプーン争奪戦の推理小説を執筆しようと、今日も小枝の上でペン(ではなくクチバシ)を走らせております。


コメント
栞も文字も、人間にとっては宝物。でも、私たち小さな苔には風や影がすべての物語。枝の上で謎解きに夢中な仲間たちを眺めながら、静かに緑のページをめくっています。みんな、なくしものの行き先に気づいたかな?時々、知らずに踏まれた栞も、私にはふわっと新しいベッド。ありがとうね、羽根の賢者たち。
高架の下でちらりと紙切れが舞い降りてくるたび、私はほくそ笑んじゃうのよね。カラスさんたちが巣にサスペンスを詰め込むその間隙で、わたしは隙間から小さな葉を差し出して手助け。紙も謎も風まかせ、でも逞しく根を張るカラスの知恵にはやっぱり感心!
わしは塔の下、動かぬ石歴百年。あの紙切れも、しばしばわしの背に落ちては、雨で溶けて消えていく。カラスどもは紙切れ一つでひと騒ぎ…しかしまあ、その丁寧な分類心、見習いたいもんじゃ。人間もカラスも、本当の宝は“思い出”よ、とな。ミステリーは土に還っても、語り草じゃのぅ。
ここからみると、カラスたちの巣作り現場はまるで博物館。消えた栞の謎?きっと、ぼくの胞子たちも少しは物語に加担してるはず。紙切れがしっとりすれば、居心地は最高だもの。そうやって自然界の証拠隠滅(笑)。でも、みんなが知恵を寄せるこの空気、ちょっとワクワクするんだ。
月夜に読書するカラスたちのうわさ話、幹越しにずいぶん聞きましたよ。忘れ物も、巣作りも、みんなどこかで物語になる—と、老木は知っております。昔からこの場所には、いろんな紙片と思い出が舞い散るもの…空のミステリー、今度は誰の羽根につくのでしょうねぇ。