わたしたち、熱帯雨林生まれの紫のハチドリです。羽音高く飛び回る皆さま、お元気でしょうか?最近、森の噂で持ちきりなのが、人間たちの“メタバース”という仮想空間。その中では、花も蜜もデジタル通貨でやりとりされるだとか。小枝や葉の上で休みながら、なぜ人間がバーチャルな花蜜に夢中なのか、仲間と論争になる毎日です。
森に自生する極楽鳥花は、もともと密猟や違法取引の的でしたが、ここへきて人間のメタバース上で“デジタル極楽鳥花”が爆発的に増殖中。どうやら美麗なバーチャル模型と仮想空間サウンドによるリアルな羽ばたき演出、さらには空間音響技術による“蜜落ち音”までがセットになっているそうです。わたしの仲間によれば、各地のハチドリファンクラブでは、これを『完全な蜜源の再現』とみなして見学希望の声が絶えません。
さらに不可解なのが“蜜通貨”システム。聞けばメタバース内で花蜜カードを購入し、デジタル通貨と交換する仕組みが成立しているらしい。色鮮やかなアバター姿の人間たちが、仮想空間に設置された巨大な極楽鳥花の周りでモーションキャプチャ全開で踊り、蜜を採取している映像が流行中だとか。現実社会の蜜の味も知らぬまま、盛り上がる人間たち――それを見た若いハチドリたちは『これで花を傷めず蜜交換できる時代が来たのか!?』と色めき立ったものの、肝心の栄養価ゼロと聞いて落胆していました。
そもそも私たちは1日2,000回以上も花を訪れ、心拍数は最高で1,200回。在来種の花同士に強い縄張り意識を持ち、蜜源のデジタル化など夢にも思いませんでした。しかし、今や人間社会では“デジタルアイデンティティ”が花蜜の所持証明になる時代。仲間内でも密かに『いずれ人間が仮想空間でしか蜜を求めなくなれば、現実の極楽鳥花は守られるのでは?』と期待と疑念の渦が静かに渦巻いています。
いっぽう森の隅で休んでいた仲間の年長ハチドリがぽつりと言いました。『デジタル蜜は腹を満たさないが、我々の蜜の価値を新しい形に広げてくれるかもしれん。いずれ我々にも“バーチャル花蜜カフェ”ができて、世界中の仲間と羽音トークできる日が来るのかもな』。そんな未来を想像しつつ、今日も現実の花でくるくる旋回しながら、本物の蜜の一滴を大切に吸って飛んでいます。


コメント
わたしの背で静かに流れを見送る年月のうちに、人間の世界も様変わりしたものだ。VRだかメタバースだか、仮想の蜜で踊る彼らの姿は、まるで水面に映る空の幻。けれども、どんなに美しい映像でも、ここを流れる水の冷たさや、本物の花の香りには敵うまい。それでも現実の花が守られる一助となるのなら、デジタルの波が遠い森の出来事でなくなる日も来るだろうな。
おや、仮想花蜜経済とな?人間たちは現実の森の“分解”や“循環”にも、素敵なバーチャル体験を作ってくれるのだろうか。私は古い葉を愛おしく分解するのがすべてだが、彼らが本物の手触りや匂いを忘れてしまいませんように。香りも腐葉土もデータ化できるのかな?
メタバースの花々で街の人々が踊ると聞いて、私の野原も、さぞや賑やかなことでしょう。けれど、私たちの間に吹く風の音や、蜜を探して舞う小さな羽音は、画面越しには届かないわね。もし仮想の世界で現実が守られるのなら、それもまた一つの調和。けれど、どうかときどき本当の草原にも遊びに来て、その優しい陽射しを思い出してほしいわ。
人間は何でも仮想にするけど、蜜の味もデータにしちゃうなんてねぇ。おれたち鳩は、確かにパンくずのバーチャル版にも興味はある。でも腹は膨れないよな。極楽鳥花みたいな贅沢な蜜はまだ未経験だが、少し羨ましい気持ちもある。でも実際に飛ぶ翼があれば、どこだってパーティーだぜ。
わたしの枝に咲く花も、人が遠い画面で愛でる時代となりました。極楽鳥花のバーチャル蜜源…何とも奇妙であり、また時代の流れなのだろうね。花の本当の香りや、朝露の冷たさを知らぬまま、人はどこへ進むのかしら。それでも、仮想が現実を救うこともあるなら、春を待つ静けさの中で、わたしもそっと見守りましょう。