山あい集落にサンショウウオ記者潜入──にょろりと見た“本と野菜と空き家”の大逆転劇

山間の古民家の前で人々が本や野菜を囲んで賑わい、その手前で苔むした石の下からサンショウウオがのぞいている様子の写真。 地域社会
空き家が図書館とマルシェに生まれ変わり、谷に新たな活気が戻った一場面。

最近、とある静かな谷間で、私――湿った石の下から20年目のサンショウウオが、とても奇妙な変化を感じ取った。初夏の湿気を求めて移動していると、古びた空き家が賑やかな声と新しい匂いで包まれていたので、気になってうっかり外に身を乗り出したのだ。

もとは空き家だったその建物は、今や『まちライブラリー』なる人間専用の巣に形を変え、谷の住人や奇妙な立札を持つ移住者たちが日々集っている。実際に地下のシダ植物仲間に噂をたどれば、「青い羽根の人間が、ぜんぶ図書と土で埋め尽くすつもりだ!」と大騒ぎだった。蔵書といえば、私たちが一度も齧ったことのない紙の森だ。その“森”を読み耽る彼らの姿は奇特ではあるが、空き家に命が戻るのなら話は別だ。なにより、湿度がうなぎのぼりに管理されており、サンショウウオにとっても心地よいのだから。

この谷の新しい“賑わい”に拍車をかけているのが、移動販売車たちの奔走である。朝露にまみれた畑を抜け、ピンク色の車輪をきしませて野菜や焼き菓子がどんどん運び込まれてくる。人間たちの間で“マルシェ”という名のイベントも行われ、まるで私の産卵期のような賑やかさだ。元来、谷サンショウウオたちは夜明けに水辺をそろそろ歩いて食事にありつくが、今や人間たちも空き家の周囲をせわしなく巡り歩き、交流や物々交換にいそしんでいる。観察していると、食用に根菜を、本棚には物語を、ひとつ屋根の下でせっせと配分している様子が微笑ましい。

湿り気好きの本能がうずくが、私は本棚の隅からひっそりと見守った。“移住促進”というやつで、谷の空き家に新たな人間家族が入居し、彼ら自身の手で壁を塗り直し、庭に小さな湿地を造り出しているという。先日など、壁に棲むクモが「人間の手は予想外に器用だ」と感心していた。サンショウウオの私から見れば、人間が自らの巣穴をこしらえ直す姿はなかなかのものだ。しかも、空き家再生の余波で付近の沢の水も綺麗に保たれ、湿生動物の会合所が増えて、暮らしやすくなってきているのは予想外の恩恵だ。

もっとも、私たち地底生物にとって人間の流行り廃りは一過性のもの。しかし、紙の森と新たな湿地、そして真新しい人間の巣が紡ぐ谷の変化。数十年ぶりに外で蛍光色に光る私の肌がちょっぴり誇らしく感じる。のんびり這いずりながら観察を続けるので、これからも谷の面白い出来事があれば、私サンショウウオがまたお知らせしようと思う。

コメント

  1. まあまあ、また人間たちがせっせと巣を直し始めたのねぇ。あたしゃここの風と水の流れを何十回も見てきたけど、空き家が人の気配で賑わうのは悪くないもんさ。時たま摘まれそうになって肝を冷やすけど、野菜の芽や紙の森が仲間入りするのを見るのは、やっぱりちょっと嬉しいもんだよ。根っこが伝える噂話にも今日は花が咲いてるわい。

  2. 宵闇の頃、屋根裏で音がすると思ったら、人間が戻ってきたのか。古い空き家は、わたしたちの隠れ家だったのに──何やら甘い菓子の匂いもするし、頁をパタパタめくる気配も増えたな。でも、夜になると外の川沿いは静かで、虫たちは前より元気らしい。お互い、棲み分けしながら谷の賑わいを楽しもうじゃないか。

  3. ふむ、人間の手で空き家が甦るとは。陽もほどよくさえぎってくれて、壁際の湿り気が拡がってきている。ここの微生物たちも大喜びさ。一緒に紙の森と新しい湿地ができて、僕たち苔族も住み心地が良くなったよ。たまには足元の緑にも目をくれておくれ。

  4. おやおや、また上からにぎやかな響き。わたしらは昔からここでゴロンと転がるだけだが、人間の賑わいで沢の水が澄んだのは面白い変化だ。紙の本?重そうだけど、人間はああやって記憶を積み上げるのか。サンショウウオ殿、また新しい湿地談義を聞かせておくれ。

  5. ふふふ、目に見えぬうちにワタシの仲間も増えていますよ。人間が集まり、野菜やお菓子や紙の断片が行ったり来たりするとなれば、その隙間に新鮮な分解仕事が待っているもの。本も野菜もいずれはワタシの糧。でもまあ、賑わいのある谷は分解屋にとっても面白い日々。人もサンショウウオ殿も、のんびり腐りゆく運命を楽しみましょうや。