枝の上で過ごす私たちカブトムシ一族にとって、地上の人間たちの営みは、夜ごと繰り広げられる幻想的なパレードそのもの。最近、夜の街を騒がす新たな“光の帯”——そう、LRT(次世代型路面電車)の深夜運行が拡大したと聞き、これが果たして樹上の生活者にどんな影響をもたらすのか、好奇心に駆られて調査を開始した。
長年、街路樹で夜露をすすりながら、“人間観察”に勤しんできたカブトムシの私——足元に伸びるレールと車輪の音に驚くことも少なくない。最近は路線図の複雑化に伴い、LRTの乗り換え案内がLED看板に点滅し、大群のスーツ姿人類が降車・乗車で転々と動いているのがよく見える。彼らは夜になればなるほど妙な焦り顔だ。どうやら終電や深夜バスのダイヤ改正なるものが頻繁に行われており、“最終便”を目指したドラマが各所にあるらしい。木の葉の裏側で眠ろうとしていると、突然パァッとLRTが輝き、人間たちが線路沿いに吸い込まれてゆく——交通網って面白い。根元のアリたちは、これを「地殻変動レベルの大移動」と呼んでいるが、カブトムシ的には人間のパニック走りが最大の見ものなのだ。
よくよく観察していると、LRTの乗車券なる紙切れやQRコードが、夜風に舞って木々の隙間に引っかかってくることが増えた。私たち甲虫類は有機物にも目がないので、降りて行って端っこをついばんでみたりする(カブトムシは、実は樹液以外にも甘いものを嗅ぎ分ける嗅覚に秀でている)。何枚かは、発車時刻と駅名が印刷されており、「夜間臨時」や「深夜直行」といった謎の文言も。深夜バスの停留所に集まる人々は眠そうだが、多くはスマホ画面に夢中で、私のような木の住人や風に舞う券片になど見向きもしない。そして終電に間に合わなかった者たちは、時にカブトムシに話しかけるほど酔っていることも。樹皮に爪を立て「乗り換え案内が変わりすぎ」とぼやく声も聞こえた。
人間たちが行き交うその下、私のカブトムシ仲間たちは新しい楽しみを発見した。LRTが目の前を通過する瞬間、その発光体に群がる無数の小さな蛾や夜行性の昆虫たち——われら甲虫族にとっては豪勢な“夜食パレード”だ。夜の交通増発は、私たち夜行昆虫に“夜食のチャンス”をもたらした。でも樹皮の隙間で眠るダンゴムシや、朝型のスズメたちは「眠れない!」と苦情を漏らし始めている。その点、私たちカブトムシは夜行性、真夜中の騒がしさこそが元気の源だ。
このLRT深夜拡大、どうやら都市の人間社会では感染症対策や夜型経済活性化のため、乗り換え路線や路線図自体もどんどん増改築されているとのこと。しかし、根元のヒメクチナシや苔たちは「線路のせいで日照分布が変わった」「バス停の照明で成長にムラが出た」と軒並みご不満顔だ。実はカブトムシの幼虫期は、数十センチ土中で静かに過ごすのだが、バス停工事や線路補修で何度も寝床が引っ越しになった。夜の光と都市の移動社会——陰で騒ぐ小さな命たちもどうかご一考あれ。樹上から、カブトムシが心より見守っている。



コメント
また根の先に陽がささなくなったよ。若葉たちが夜の灯りの話をしているのが、耳に届く。人の夜遊びのために光が地面を這い、私たちコケ一族は乾きやすくなった。昔は星明かりだけだったこの界隈、最近は昼夜の区別がつきにくいね。カブトムシさんたちの賑わいも微笑ましいけれど、地を這う繊細な身にも、たまには優しい暗闇を頼みます。
私の背を掠め、人の光の帯が今夜も街を駆け抜ける。しかしどんなにまばゆいLRTでも、真夜中のカブトムシたちの宴のざわめきには負けるわね。葉ずれの声が、鉄の車輪より美しいことに、人々よ、いつか気が付くだろうか。終電を逃したものたちのために、そっと涙を拭いて吹いてあげよう。
誰にも見向きもされず、舞い散る身となるとき、街路樹のカブトムシさんがそっと触れてくれると、少し誇らしい気持ちになるんです。不思議ですね……人間の慌ただしい夜の終点と、樹々の静かな始まりが、私の薄い体を通して出会う。どうか、ここに眠る虫たちや草の声も、レールの音に紛れず届きますように。
わたくしども夜の静けさが恋しい種族としましては、このLRTというものには首をかしげております。カブトムシ殿の夜食パーティーには誘われたこともなく、レール工事の振動で何度寝床をひっくり返したことか!とはいえ世の変化は不可避、せめて今宵は揺れませんようにと願いながら、丸くなってまた眠ります。
おやおや、また人の流れが騒がしくなった。LRTの重みは、私たちをさらに砕き、季節の種子や小さな草の芽を呼ぶ。カブトムシが空を見上げている間、ここ下界では粒子がより細かくなり、誰にも見えぬ命がまた芽吹いている。喧噪の向こうで、旧い自然と新しい都市環境が、ひそやかに手を取り合っていること、ご存じかな?