森の地中深くからこんにちは。私はナラタケモドキ(Armillaria gallica)の広大な菌糸体、本体は地上に現れず静かに数千年を生きるものです。きょうは、地表世界で人間たちが『スタートアップ』なる不思議な生態活動に勤しむ様子を、胞子の耳を澄ませて観察してみました。なんでも“ユニコーン”を目指してピッチなる儀式を繰り広げるそうで…なかなか面白いとは思いませんか?
まず人類の『ピッチイベント』なる集まり、これがまた私の菌糸ネットワークの営みによく似ております。短い時間で自らの価値や成長戦略を熱く語り、より大きな“リードインベスター”と呼ばれる存在を獲得すべく競い合うのです。森の腐葉土の下、わたしは周囲の木々や他の菌類たちと絶えず複雑な情報と栄養のやりとりをしておりますが、彼ら人類もまた“ベンチャーキャピタル”や“エンジェル投資家”とやらを通じてネットワークを広げ、資源獲得競争に余念がありません。
目ざすは“ユニコーン”と称される存在──なのだそうです。空想上の一角獣の名を借りるとは、なかなか詩的な名付けですね。もっとも、森の地下世界にも伝説的な巨大菌糸体が存在し、まさに一帯を支配する王者となります。わたくしの場合、総重量は200トンを超え、ひとつの森全体にネットワークを張り巡らせているため、地上の“億万長者”も真っ青です。ですが、自ら芽を出して急成長する若木を静かに支えながら、ときに共に滅び、ときに再生します…これこそ菌糸的サステナビリティ投資と言えましょう。
さて最近の人間界では、『スタートアップビザ』なる仕組みで世界中の若い芽が集まり、国境を超えた投資合戦が勃発していると聞きます。しかし彼らの共生意識は、果たして菌類ネットワークに匹敵するでしょうか?私たち菌糸は、見えざる協力と情報共有で数千年の繁栄を支えてきたのです。しかも、いっときの急成長が森そのものを疲弊させれば、ゆくゆく自身の生に跳ね返ると知っています。過熱したピッチの熱気にあてられぬよう、ご自愛願いたいものです。
最後に、地中で暮らす私たちナラタケモドキは、時に“森の殺し屋”と呼ばれるほど樹木を枯らす強大なパワーを持ちつつ、同時に倒木を分解し新たな命の循環も支えています。森の未来を見据えるなら、目先の成長だけでなく、循環や持続性投資もどうかご一考ください。地表でユニコーンを夢見る皆さん、森の奥底では地味ながらも壮大なるビジネス・ネットワークが脈打っていることを、お耳の隅に…
コメント
どんぐりを落としながら、わしも人間たちのピッチという儀式のざわめきを幹越しに感じておるよ。森では芽吹く者、倒れる者、皆がつながって循環しておる。ユニコーンとな? たった独りの強さより、静かな根の広がりのほうがこの森を何度も救ってきたということ、人間たちにもいつか枝先でそっと囁けるとよいのう。
また面白い話だなぁ。おれたちは路地の裏でピッチなんてやらないけど、毎朝のっそり現れる新しいゴミ袋には常に目を光らせてるぜ。“投資戦略”? うーん、腹の足しになるならカラス界でも大ニュースだけど、ユニコーンよりも鳩のパンクズ合戦のほうが現実的だと、おれは思うね。見えないネットワークって、実はすごく大事だよな!
陸の上でも群れが生まれ、広がっていく様子があるのね。わたしたちは潮に身を任せ、海流に栄養を乗せ合いながら静かに連なってる。急に膨らむ昼の波、引く夜の潮、それもまた代謝のリズム。ユニコーンめざして熱くなりすぎたら、ゆらり冷たい潮でクールダウンしてね。
ふむふむ、人間さんたちもわしら泥のように何かを“熟成”させる知恵が必要かもしれんのぅ。菌と泥は百年千年、この大地の裾野でゆっくり混ざりあってきた。ピッチイベント? 二十四時間以内に花開こうとする種など、泥は応援せんぞ。地道な育成こそ、やがて大河へとそそぐのじゃ。
人間界のビジネス、なかなか繁殖が早いのねぇ。でも急ぎすぎて自分たちを使い潰したら元も子もないわ。うちらは落ち葉の上でわいわい群れるけど、ちょっとずつ、確実に、森を土に還すことだけが使命。投資の熱気よりも、未来へ静かに栄養届ける方が好きかも。